2007-10-22

Marx Brothers 1932

「御冗談でショ」Horse Feathers(1932米ノーマン・Z・マクロード)より
“Everyone Says I Love You” (2:18)



パラマウントでの長編5作のうちの4作目。パラマウント時代はフォー・マルクス・ブラザース(年長者からチコ、ハーポ、グルーチョ、ゼッポ)だったが、MGM第1作の「オペラは踊る」(1935)の前に末弟ゼッポは芸人をやめてエージェント稼業に鞍替えしてしまう。彼らのMGM時代の映画がパラマウント時代よりもパワーが落ちたといわれる原因のひとつには、ゼッポの脱退があるのではなかろうか。「ノーマル・ガイ」の役割を担ったゼッポの不在によって、チームのバランスが悪くなったといったらよいだろうか。

ビートルズ映画がしばしばマルクス映画のイミテーションだといわれるのもむべなるかな、グルーチョの不遜さやナンセンスな言葉遊びが‘A Hard Day's Night’(1964)のジョン・レノンのお手本になっていることは明白だが、それ以上に大きいのがマルクス映画が「4人組」映画の金字塔だということであろう。

それにしても、ここでのグルーチョのふるまいのアナーキーなこと。
ピート・タウンゼントジェフ・ベックがぶっ壊すよりもジミヘンが燃やすよりもはるか前にこんなことをやっていたという驚き。英語版でないのがちょっと残念。

画像と音が粗いので上げなかったが、ゼッポとハーポが同曲をやるシーンもこちらでどうぞ。もうひとつ、ハーポだけのシーンはこちらで。ハープ演奏のアルバムも出しているハーポの名人ぶりがたっぷり見られる。

もうひとつ、チコのピアニストぶりが楽しめるクリップはこちら。チコの音楽界への貢献も音楽マニアとしては見逃せないところ。彼はチコ・マルクス楽団というビッグ・バンドを持っていて、ここをキャリアのスタートとしたミュージシャンにメル・トーメバーニー・ケッセルがいる。

●グルーチョ・マルクスのフィルモグラフィ
●ハーポ・マルクスのフィルモグラフィ
●チコ・マルクスのフィルモグラフィ
●ゼッポ・マルクスのフィルモグラフィ
●マルクス・ブラザース @ Wikipedia
●ノーマン・Z・マクロードのフィルモグラフィ

2007-10-16

The Johnny Burnette Trio 1956

‘Rock, Rock, Rock’ (1956米ウィル・プライス)より
“Lonesome Train” (2:25)



アラン・フリードのMC付。ジョニー・バーネット(v,ag)とドーシー・バーネット(b)の兄弟に友人のポール・バーリソン(eg)というサン・レコード時代のエルヴィスと同じ編成だが、別名The Rock and Roll Trioを名乗るように、よりワイルドというかロックっぽい。ネオ・ロカ時代になってから彼らに対する評価が高まってきたのがとても納得できる。

バーリソンのギターがいい。メンフィス時代のハウリン・ウルフとも親交を持ち、一緒に演奏したこともあると伝えられるが、どこかウルフのギタリストたち(ヒューバート・サムリンやジョディー・ウイリアムス、とりわけウイリー・ジョンソン)を想起させる音色・フレージングを持っている。しかし、イントロやリフなどを聴くとカントリー/ロカビリーのノリと音階だなあと思う。

現在ではロカビリーのパイオニアと呼ばれてリスペクトされている彼らだが、商業的には全く報われず、バーネット兄弟の喧嘩が絶えることはなかった。そのせいで映画撮影当時のベーシストはエルヴィスのバンドで有名なビル・ブラックの弟ジョニー・ブラックがつとめている。1957年には解散し、その後ジョニーはソロ・アーティストとして成功するわけだが、トリオ時代のワイルドさは格別だと思う。CD1枚でトリオ時代の全音源が聴けるのでベアファミリー盤をおすすめします。

●ジョニー・バーネットのフィルモグラフィ

2007-10-15

Claudine Longet 1968

「パーティ」 The Party (1968米ブレイク・エドワーズ)より
“Nothing To Lose” (2:56)



クローディンヌ・ロンジェの人生を振り返ると何とも意味深なタイトルの歌。そして彼女の曲の中で個人的モスト・フェイヴァリットがこれ。映画の音楽担当ヘンリー・マンシー二の曲である。写真のサントラCDにボーナス・トラックとして入っている。

マンシー二といえばブレイク・エドワーズとのコンビが有名だが、私見ではエドワーズの映画にマンシー二の音楽がなかったら、とても観ていられない作品が多いと思うのだがいかがでしょうか。

●クローディンヌ・ロンジェのフィルモグラフィ
●クローディンヌ・ロンジェ @ Wikipedia
●ヘンリー・マンシー二のフィルモグラフィ
●ブレイク・エドワーズのフィルモグラフィ
●「パーティ」Trailer

2007-10-14

Dick Powell with Ruby Keeler 1934

「泥酔夢」 Dames (1934米レイ・エンライト&バスビー・バークレー)
より 『瞳は君ゆえに』 I Only Have Eyes For You (10:17)



映像の魔術師バスビー・バークレーの華麗なるショーの始まりだよ。エディ・キャンター主演の‘Whoopee!’(1930)が映画界での初仕事(振り付け)。本作は監督2作目なのだが、早くもバークレー色全開である。一般的イメージとしての彼の映像の特色は、おもに女性ダンサーを真俯瞰から捉えて、彼女たちの肉体と衣装がカレイドスコープ(万華鏡)で覗いた幾何学模様を描くように振付けるといったもの。実際には、ここで観られるようにアノ手コノ手で観る者をアッと驚かせてくれます。

おもにディック・パウエルが歌う『瞳は君ゆえに』は、フラミンゴスのヒット(1959)などで有名だが、この映画のためにハリー・ウォレン(曲)とアル・ドゥビン(詞)が書いたもの。フラミンゴス・ヴァージョンと違って頭にヴァースがついているところに時代を感じる。

●ディック・パウエルのフィルモグラフィ
●ルビー・キーラーのフィルモグラフィ
●バスビー・バークレーのフィルモグラフィ

Sylvia Telles 1962

‘Assassinato em Copacabana’ (1962ブラジル, dir. by
Euripides Ramos )より “Demais” (3:56)



ブラジル音楽のことは同じBlogger-BlogspotのLoronixの世話になりっぱなしだ。おかげで多くの未知・未聴のミュージシャンを知ることができた。多謝。このクリップもLoronixを読んで映画名が判明した。ついでに言えばBlogger-Blogspotでブログをやろうと思ったのも、ここの影響だと告白しておこう。

Sylvia Telles( シルヴィア・テリス、aka Silvinha Telles )は「ボサノヴァの永遠の恋人」などと呼ばれる人気歌手だが、デビューはボサノヴァ隆盛期より少し前の1950年代半ばで、しっとりとしたサンバ・カンソンを聴かせるのが彼女の本領といえる。“Demais”(ジマイス)はトム・ジョビンと彼女の夫でもあったAloysio De Oliveiraの共作。1959年に出た彼女の3枚目のアルバム(写真)に収録されている。

この映画も未見で、内容についても監督についても全然知らないのだが、「犯罪映画」とのこと。IMDBの彼女のフィルモグラフィには載っていなかった。下に不完全ながら彼女のフィルモグラフィを作成しておきます。あと、主役のMaria Petarが歌うシーンがあって、その吹き替えもシルヴィアがやっているらしい。Loronixで観られます。

Sylvia Tellesのフィルモグラフィ / ディスコグラフィ / Wikipedia
‘Carnaval em Marte’(1955ブラジル、Watson Macedo)
‘Marido de Mulher Boa’(1960ブラジル、J.B. Tanko)
“Se É Tarde, Me Perdôa”
‘Assassinato em Copacabana’ (1962ブラジル、Euripides Ramos)

2007-10-13

ピンキーとキラーズ Pinky & The Killers 1969

「恋の季節」(1969松竹・井上梅次)より
『恋の季節』(1:18)



岩谷時子作詞・いずみたく作曲の大ヒット曲。1968年から1969年にかけて創立まもないオリコンシングルチャート1位を佐川満男の『今は幸せかい』の1週をはさんで17週間占めるほどの大受けぶりだった。そんな忙しい彼らゆえ、主演映画とブチ上げても実質の主演は奈美悦子であった。

ところで、ソロ歌手だったピンキー(小指という意味だそうな)こと今陽子と組んだキラーズが、ボサノヴァ・グループだったということを初めて知った。登場人物がブラジルへ行ってしまう設定は、その関係だったのかな。

劇中でもう1曲、セカンド・シングルの『涙の季節』も歌っているのだが、だいぶ前にYouTubeから削除されたまま。このクリップもいつまでもつことやら。しかし、なぜ削除申請するかなあ。「ビジネス・チャンス」ととらえる先取性と太っ腹さがないのね。そんなこっちゃ誰も幸せになれないじゃないですか。

ピンキーとキラーズのフィルモグラフィ / Wikipedia
「恋の乙女川」(1969松竹, 市村泰一)1969.01.11
「花ひらく娘たち」(1969日活, 斎藤武市)1969.01.11
「恋の季節」(1969松竹, 井上梅次)1969.02.21
「涙の季節」(1969日活, 丹野雄二)1969.03.12
「喜劇 婚前旅行」(1969松竹, 瀬川昌治)1969.04.26
「夕陽に向かう」(1969松竹, 田中康義)1969.10.15
「喜劇 よさこい旅行」(1969松竹, 瀬川昌治)1969.11.15
「チンチン55号ぶっ飛ばせ!出発進行」(1969松竹, 野村芳太郎)1969.12.31
「喜劇 満願旅行」(1970松竹, 瀬川昌治)1970.04.25
「恋の大冒険」(1970東宝, 羽仁進)1970.07.18

●井上梅次のフィルモグラフィ

2007-10-12

Jimmy Cliff 1972

「ハーダー・ゼイ・カム」 The Harder They Come
(1972ジャマイカ, ペリー・ヘンゼル) より
『ハーダー・ゼイ・カム』 The Harder They Come (3:31)


レゲエ系の音楽は新旧ともに今では滅多に聴かないのだが、イイねえ。力強いヴォーカルとオリジナルな意味でのファンキーな演奏。この映画が日本で公開になったのは1975年か1976年だと記憶しているが、たしか1976年に観たのだと思う。このころはスカレゲエロックステディも区別がつかなかった。『ハーダー・ゼイ・カム』映画ヴァージョンは、ロックステディの色を残したレゲエといえばいいだろうか。今じゃ、ジャマイカ音楽でかろうじて興味があるのはスカ以前のメントぐらいかなあ。

映画では、やっと録音したこの曲を20ドルで買い取られて、曲はヒットしたもののスカンピンのままというジャマイカや米国で黒人ミュージシャンが伝統的に蒙ってきた搾取の構造が描かれている。「ロッカーズ」(1978)とともにレゲエ映画の古典である。

●ジミー・クリフのフィルモグラフィ(映画出演・サントラ・TV, V含む)
●Jimmy Cliff @ Wikipedia
●Jimmy Cliff 's Official Website
●「ハーダー・ゼイ・カム」Promo Trailer

服部富子 Tomiko Hattori 1939

「ロッパ歌の都へ行く」(1939東宝・小国英雄)より
『満州娘』(1:24)



マキノ正博や黒沢明の脚本家として名高い小国英雄の数少ない監督作品の1本。未見なのだが、古川ロッパが「昭和日記」の中で失敗作だと自らケナしまくっている作品とのこと。ところが当時のトップ歌手がステージで次々と歌うシーンが今となっては超貴重。かつてヴィデオ化されたこともあるらしい。

服部富子は服部良一の妹でテイチク専属の歌手。同じ1939年にマキノ正博の大傑作オペレッタ映画「鴛鴦歌合戦」にも出演している。石松秋二(『九段の母』など)作詞・鈴木哲夫作曲で1938年に流行した『満州娘』。「赤線地帯」(1956大映・溝口健二)で三益愛子が発狂したとき歌っていたのがこの歌だった。国策迎合の匂いがプンプンする歌詞だが、曲自体はエキゾチックで魅力的だと思う。

服部富子のフィルモグラフィ
「弥次喜多道中記」(1938日活京都, マキノ正博)1938.12.01
「ロッパ歌の都へ行く」(1939東宝, 小国英雄)1939.10.10
「鴛鴦歌合戦」(1939日活京都, マキノ正博)1939.12.14
「弥次喜多 名君初上り」(1940日活京都, マキノ正博)1940.01.13
「支那の夜 前篇」(1940東宝=中華電影公司, 伏水修)1940.06.05
「支那の夜 後篇」(1940東宝=中華電影公司, 伏水修)1940.06.15
「孫悟空 前篇」(1940東宝, 山本嘉次郎)1940.11.06
「孫悟空 後篇」(1940東宝, 山本嘉次郎)1940.11.06
「七つの顔」(1946大映京都, 松田定次)1946.12.31
「桜御殿」(1948マキノ映画, マキノ真三)1948.07.01
「サザエさん 前後篇」(1948マキノ=松竹, 荒井良平)1948.09.28
「三十三の足跡」(1948大映京都, 松田定次)1948.12.28
「果しなき情熱」(1949新世紀プロ=新東宝=東宝, 市川崑)1949.09.27
「サザエさん のど自慢歌合戦」(1948東洋スタジオ=大映, 荒井良平)1950.07.29


小国英雄の監督作品(リンク先は原作・脚本を含むフィルモグラフィー)
「ロッパ歌の都へ行く」(1939東宝, 小国英雄)1939.10.10
「金語楼の親爺三重奏 」(1939東宝, 小国英雄)1939.12.13

2007-10-08

三上寛 Kan Mikami 1974

「田園に死す」 Death in the Country aka Pastoral Hide and Seek
(1974人力飛行機舎=ATG 寺山修司)より 『カラス』 (2:13)



寺山修司の長編映画では「草迷宮」(1979)と遺作の「さらば箱舟」(1984)が好きで、それ以前の作品、たとえば本作などはあまり好みではない。リアルタイムでなくあと追いで観たせいかもしれない。寺山が意図したと思われる、象徴性を帯びた事物がうまく画面に定着していないような気がしたのだ。意味不明なところが難解と思われたフシも感じる。単純に下手くそな映画だったのかもしれない。

三上寛の情念系の歌はデビューしたころはスゴイと思ったものだが、今では苦手な部類かも。飄々としてユーモラスかつシュールな『なかなか』や『オートバイの失恋』は好きなのだけれど。『カラス』も情念系で直球な歌だなあ。このシーン以外に、三上がモノローグから突然アジるシーンもある。

●三上寛のフィルモグラフィ
●三上寛 @ Wikipedia
●寺山修司のフィルモグラフィ
●「田園に死す」Trailer

2007-10-07

Nastassja Kinski 1982

「ワン・フロム・ザ・ハート」 One from the Heart
(1982米フランシス・フォード・コッポラ)より
『リトル・ボーイ・ブルー』 Little Boy Blue (5:15)



莫大な製作費をつぎこみ、わずかな興行収益しかあげられなかった「ワン・フロム・ザ・ハート」。2,600万ドルの製作費(当時1ドル=240円ぐらいか)の大部分はスタジオ内にそっくり作りこまれたラスヴェガス・ストリップと砂漠のセットに費やされたのだという。

プチ「呪われた映画」とでもいうべきこの作品、実は嫌いではない。少なくとも「コットンクラブ」(1984)の100倍ぐらいは好きだといっておこう。そりゃケチをつければいくらでもつけられると思う。曰く「ヴィットリオ・ストラーロのカメラがベルトルッチ作品ほどよくない」とか「トップ・ロールの2人(フレデリック・フォレストテリ・ガー)が魅力的でない」とか何とか。でもそんなの関係ネエ、とはいわないがトム・ウェイツの音楽とナスターシャ・キンスキーの美しさがそんな欠点を覆い隠していはしまいか。

トム・ウェイツ、実は苦手である。近年の、ビーフハートをただ汚くしただけのような歌声も、デビュー当時のうらぶれた街の吟遊詩人風もともに違和感があるのだが、この映画の音楽には素直に入り込めた。

サントラ盤にはウェイツが歌ったヴァージョンが収められている『リトル・ボーイ・ブルー』は、女優さんにはちとむずかしい歌だったかもしれない。吹き替えに関する情報は見つからなかったので、素人っぽさを露呈している弱々しい声はまぎれもなく本人のものだと思うのだが。

ところで同じシーンを3ヴァージョン収録したこのクリップは、DVDの特典映像か何かなのだろうか。映像のオプティカル処理も音楽のアレンジも(ヴォーカルのテイクもかな?)少しずつ違うのだが、公開ヴァージョンは最初のやつだったろうか。

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(2007.10.16追記)映像が削除されてしまいました。またアップされたら拾ってきましょう。

●ナスターシャ・キンスキーのフィルモグラフィ
●フランシス・フォード・コッポラのフィルモグラフィ
●トム・ウェイツのフィルモグラフィ
●ヴィットリオ・ストラーロのフィルモグラフィ

2007-10-05

葛蘭 Ge Lan/Grace Chang 1960

「野玫瑰之戀」 Ye mei gui zhi lian / The Wild, Wild Rose
(1960香港Tian-lin Wang) より 『卡門(カルメン)』 Carmen (3:36)

「野玫瑰之戀」 Ye mei gui zhi lian / The Wild, Wild Rose
(1960香港Tian-lin Wang) より 『說不出的快活』 Ja'Jambo (1:48)



北京語で歌われるポップスをマンドポップまたはマンダポップというらしい。全くの門外漢には、グレース・チャン(葛蘭)の位置づけなど分かるはずもなく、またこの映画も当然未見です。すみません。服部良一生誕百周年記念に何かひとつエントリーしようと思って検索していて引っかかってきたのがこの人。

この当時の香港映画界は日本の監督やカメラマンを受け入れて技術交流をしている時代だった。「香港への道」(リュミエール叢書)の著者のカメラマン西本正氏がキーマンであった。この映画のカメラは西本氏ではないが、立派な絵作りの映画なので驚いてしまう。果たしてこれは日本映画界の技術移転の賜物なのであろうか。

ビゼーの『卡門(カルメン)』の編曲に服部良一がクレジットされている(といってもこれはアップロードした人のコメントに書いてあったもの)。ところで、服部良一はわざわざオリジナル編曲を頼まれたのだろうか。1947年にミュージカルで笠置シヅ子らが歌った『ジャズ・カルメン』の使いまわしなのではないかと推理しているのだが。

そう推測するのは『說不出的快活(ジャジャンボ)』が1955年の笠置の持ち歌だからだ。残念ながらオリジナル未聴につき、アレンジの異同については分からないのだが、『カルメン』の後半部分も含めて服部らしさが全開のアレンジだと思う。

グレース・チャンは基本的にはクラシックの歌い方を勉強した人らしいのだが、パンチがあってノリもよく、素晴らしい歌手だと思う。『カルメン』の前半の歌唱は矢野顕子を想起させる。あと関係ないけど顔はちょっと内田春菊に似ているかも。

この映画はオペラ「カルメン」の翻案らしくて、実はもう1曲服部がからまないクリップがあるのだが、いまひとつ面白味を感じなかったのでオミットした。興味のある方はこちらもご覧下さい。

………………………………………………………………………………………

(2007.10.11 追記)
すみません。訂正です。笠置シヅ子の『ジャジャンボ』持ってました。3枚組CD「ブギの女王=笠置シヅ子」の3枚目に入っておりました。旗照夫とのデュエットで、アレンジはグレイス・チャンのものとほぼ同じ。ただ、冒頭に「ジャジャンボー」とブチ上げるのと終盤に2回転調してキーを上げていくのはグレイス・ヴァージョンだけの特徴。加えてヴォーカルのノリは圧倒的にグレイス・チャンの方がよい。笠置のCDの解説(筆者無署名)に、この曲は法華経のリズムをヒントに書かれたとあり、なるほどオリジナル版のヴォーカルはお経のようにベッタリした譜割とノリだわ。ちなみにこの曲は笠置のラスト・レコードでもありました(片面『たよりにしてまっせ』)。

●葛蘭のフィルモグラフィ
●葛蘭 @「香港映画の世界」
●Unofficial website of Grace Chang, Ge Lan
●Tian-lin Wangのフィルモグラフィ
●服部良一のフィルモグラフィ
●服部音楽出版 presents 「胸の振り子」

Jackie Chan & Chris Tucker 1998

「ラッシュアワー」 Rush Hour (1998米ブレット・ラトナー)
より 『黒い戦争』 War(what is it good for) (2:57)



世代も文化的バックグラウンドも違う2人が、1つの歌で心を通じ合うというイイシーン。まあ映画的なご都合主義で、さんざんやり尽くされた手ではあるのだが、これを鼻で笑うような人は映画なんぞ観る必要はありません。ちなみにジャッキー・チェンは1954年、クリス・タッカーは1972年生まれだそうだ。

『黒い戦争』は、エドウィン・スター
が1970年にモータウンからリリースしてポップ・チャートの1位にまでなった大ヒット曲(ノーマン・ホイットフィールドのプロデュース)。もちろんヴェトナム戦争のプロテスト・ソングである。彼はデトロイト・ソウルでは傍系のRic-Ticレーベルからデビューした人で、デトロイト産ディープ・ソウルの世界の話も深くて面白いのだがやめておきましょう。

‘you all’を‘y'all’に直されるくだりが特に面白かった。

●ジャッキー・チェンのフィルモグラフィ
●ジャッキー・チェン @ Wikipedia
●クリス・タッカーのフィルモグラフィ
●クリス・タッカー @ Wikipedia
●ブレット・ラトナーのフィルモグラフィ

城よしみ Yoshimi Jo 1969

「薔薇の葬列」Funeral Parade of Roses (1969 ATG 松本俊夫)より
『ベッドで煙草を吸わないで』(1:39)



スタンリー・キューブリックのフェイヴァリット作なんだそうだ。前エントリーの「時計じかけのオレンジ」(1971)には随所にその影響があるとのことだが、いつも映画をボーッとしか観ていないせいで、主人公のつけ睫毛ぐらいしか似ているところを見つけることができない。

松本俊夫といえば、実験映画の大御所であるとともに、映画界きっての理論家で「映像の発見」「映像の探求」「映画の変革」などの著書もある。どの本の記述かは忘れたが、映像の価値(というか映像作家の志向性といったほうが適切かな)を「モンタージュ」と「フォトジェニー」の2要素に行き着くということを言っていて、読んだ当時はなるほどと思ったものだが、いまは「音」「台詞」「音楽」を除外した論で一定の有効性しかない、と音偏重派の人間としては反論したいところだ。

その実験映画の「俊英」が手がけた初の劇映画が本作。ピーターこと池畑慎之介のデビュー作でもある。キワモノ的なゲイボーイの世界に「オイディプス神話(エディプス・コンプレックスはここからとられた概念。ピーター演ずるエディの役名もこれに由来する)」を持ち込んだり、ボードレールジョナス・メカスを引用するなどペダンティックなつくりの映画だ。また時制が入り組んだ構成は、アンゲロプロスジャームッシュ、さらにはタランティーノの映画を観てしまった現代の観客には普通のことだが、本作封切当時には新鮮だっただろうと想像する。

『ベッドで煙草を吸わないで』は、ここ数年来関心を持っている平岡精二
の曲だと思い込んでいた。岩谷時子作詞、いずみたく作曲、沢たまき歌で1966年に出た曲だったのね。どうしても旗照夫の『あいつ』やペギー葉山の『爪』と世界がかぶる曲なのだが。

あ、そうそうピーターの左の男は蜷川幸雄です。自分の芝居にはダメ出ししないんですね。

Malcolm McDowell 1971

「時計じかけのオレンジ」 A Clockwork Orange (1971英スタンリー・
キューブリック)より 『雨に唄えば』 Singin' in the Rain (3:14)



『雨に唄えば』を歌いなが暴力・陵辱の限りを尽くすというアイデアは、アンソニー・バージェスの原作にはなく、撮影現場で急遽追加された演出なのだという。マルコム・マクダウェルが空で歌えるのはこの歌だけだったので選ばれたとのことだが本当だろうか。あまりにもハマリすぎている。クラシック音楽、とりわけベートーヴェンの第9シンフォニーが好きという設定とは矛盾するような気もするが、違和感は全くない。映画の終盤で正体がバレるときのキッカケとしても気が利いていると思う。

ドキュメンタリー映像などで人となりを見る限りでは、キューブリックは穏健で政治的にもリベラルな人物に思えるのだが、彼の作品からは暴力を憎みつつ魅せられてもいるというアンヴィヴァレントな志向性が感じられてならない。実はそれがヴァイオレンスを描く映画監督には必須な資質なのかもしれないと思ったりもするのだが。

2007-10-04

Jean Hagen 1952



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「雨に唄えば」 Singin' in the Rain (1952米ジーン・ケリー&
スタンリー・ドーネン)より 『雨に唄えば』 Singin' in the Rain (1:45)



ジーン・ヘイゲンはこの作品でアカデミー助演女優賞ノミネートを受けたということだが、彼女のキャリアにとってはあまりプラスには働かなかったようだ。これ以降はあまり映画出演がなくなり、TVドラマ・TVムーヴィーが彼女の活躍の場になる。晩年(77年に54歳で死去)の1976年には、日本でも放映されて人気のあった「刑事スタスキー&ハッチ」などに出ていたらしい。

ライノターナー・クラシックス・ムーヴィーズが共同で出した「雨に唄えば・デラックス・エディション(2枚組CD)」のライナーには、にわかには信じがたい記述がある。デビー・レイノルズが無理やり吹き替えをやらされているこのシーンの歌は、実際にはジーン・ヘイゲンが録音したものをレイノルズが口パク(リップシンク)しているというのだ。『タミー』(1957)などのヒット曲を持つレイノルズのことだから、他の曲は彼女自身が歌っているのだと思うが、このシーンでの歌をヘイゲンが歌ったのだとすれば、ヘイゲンのプライドがそうさせたのであろうと想像する。

本ブログで、通常エントリーとは別立てに「映画における吹き替え、またはリップシンク論」をやってみたい気持ちに駆り立てられるエピソードだが、その実現はいつになることやら。

2007-10-03

Bing Crosby with Eddie Lang 1932



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「ラヂオは笑ふ」The Big Broadcast (1932米フランク・タトル)より
“Dinah,” “Please”(3:22)



ビング・クロスビーは意外に黒っぽい。クロスビーは、ジャズ/ポピュラー・ミュージック史では一般的に「クルーナー」と分類されてきた。それ自体は画期的なことだが、単なるバラーディアーとみなされがちなのも事実。「ブルースの誕生」(1941)などを観てもわかるように、ジャズ感覚を相当濃厚に持った人だった。ちなみに「ブルースの誕生」を観て若きナベサダさんは、ジャズ・ミュージシャンを志したと聞く。本作の“Dinah”のスキャットの堂々たるスイング感はどうですか。

このクリップが貴重なのは、戦前の名ギタリスト、エディー・ラングの数少ない映像のひとつであるからだ。ビックス・バイダーベックフランキー・トランバウアーたちとともに伝説のジーン・ゴールドケット楽団や時代の寵児だったポール・ホワイトマン楽団で共演し、そこで同僚になったクロスビーが売り出すときのパートナー(のひとり)になるはずだった。ところが本作の翌年に手術中の出血がもとで死んでしまう。ラングの吹込みを聴くと、その音楽性の多様さに驚かされる。単にジャズ・ギターのパイオニアに留まるものではなかっただけに、その死が非常に惜しまれてならない。

Mae West 1970

「マイラ」Myra Breckinridge (1970米マイケル・サーン)より
“You Gotta Taste All the Fruit,” “Hard to Handle” (4:15)



戦後はずっと映画に出ていなかったメイ・ウエストの27年ぶりの映画出演だそうだ。長年スチール写真とその伝説的な名前のみの存在であった彼女の存在感が素晴らしい。ちなみに1893年生まれの彼女は本作撮影時には77歳の喜寿。YouTubeで戦前作品の断片を観ても、どうしてこんなケバいオバサンに人気があったのだろうと思ってしまうのだが、この映画ではハリウッド・イコン的な彼女の存在感を十分に活かしているように思う。

“You Gotta Taste All the Fruit” は、戦前の彼女が歌ってきたレヴューっぽい感覚をどこか残しつつ、撮影当時の最先端のビートと性的ほのめかしが直球な歌詞を伴った曲。オオッと思ったのはオーティス・レディングの“Hard to Handle”の選曲。このミスマッチを楽しむのが、スーザン・ソンタグ言うところの「キャンプ趣味」であろうか。

もともとゴア・ヴィダルの原作が相当キャンプ的なものだった(と言っても続編の「マイロン」(サンリオ文庫)しか読んでいないのだが)。レックス・リード(元々映画批評家、のちにゴング・ショーの審査員で有名になった)演ずるマイロンが性転換してマイラ(ラクェル・ウエルチ)になり、最後にまたマイロンに戻るという話なのだ。駆け出し中のファラ・フォーセット・メジャースがマイラの心中のマイロンの恋人として出演している。

2007-10-01

松原智恵子 Chieko Matsubara 1966

「東京流れ者」Tokyo Drifter (1966日活・鈴木清順)より
『ブルーナイト・イン・アカサカ』(6:59)



松原智恵子が本当に歌っているはずもなく、鹿乃侑子という人が吹き替えしているわけだが、声質のイメージが松原と重なるだけが取りえといったらいいすぎか? 魅力のない歌声である。

この歌をフルコーラス歌うシーンや、渡哲也が『東京流れ者』を歌うシーン、それに何と二谷英明の『男のエレジー』が流れるシーン(たしか歌うシーンはなかったと思う)もあるのだが、ネット上にあるのはこれだけなのでご勘弁を。作詞:北原たけし、作曲:楠井景久、編曲:鏑木創(本作の音楽担当)。

それにしても木村威夫らしいセット(というよりもこのシーンは単にデコレーションか)と清順さんらしい色彩感覚だ。オブジェの色が何度もかわるところ、要注目です。昔オールナイトで観たプリントはボロボロで、色は褪せ至るところにコマとびがあるという代物だった。ニュー・プリントもしくはデジタル・リマスター版なのかなコレ。キレイだなあ。DVDが欲しくなりました。

「流れ者には女はいらネエんだ」「女と一緒じゃ歩けネエんだ」クサーい台詞にもシビレます。ちなみに原作・脚本は、アノ川内康範先生です。

笠智衆 Chishu Ryu 1962

「秋刀魚の味」An Autumn Afternoon
(1962松竹大船・小津安二郎)より 『軍艦マーチ』(3:54)


軍艦行進曲

作詞:鳥山 啓
作曲:瀬戸口 藤吉

著作権:消滅(詞・曲)

一、
守るも攻めるも黒鉄(くろがね)の
浮かべる城こそ頼みなる
浮かべるその城日の本の
皇国(みくに)の四方(よも)を守るべし
真鉄(まがね)のその艦(ふね)日の本に
仇なす国を攻めよかし

二、
石炭(いわき)の煙は大洋(わだつみ)の
竜(たつ)かとばかり靡(なび)くなり
弾撃つ響きは雷(いかづち)の
声かとばかりどよむなり
万里の波濤(はとう)を乗り越えて
皇国(みくに)の光輝かせ


明治三十年頃作
明治四十三年改作


またしても「天翔艦隊」さんより転載させていただきました。こんなに古い曲だとは知りませんでした。

この映画については皆様よくご存知だと思いますので、くどくど申しません。1、2点のみ。蓮實重彦氏の「監督 小津安二郎」での記述(例によってうろ憶えな引用で申し訳ない)、「不可視(だったはず)の階段」の突然の出現。この記述に驚いたことを昨日のように思い出します。

それと、『軍艦マーチ』の楽団演奏(小規模な楽器編成だと思うが、詳細については知らない)に続いてエンディングに流れる音楽(タイトル『終曲』、作曲:斉藤高順)がイイ。昔はじめて小津映画を観たころは、さほどには思っていなかったように記憶します。少々湿った叙情的なメロディですが、通俗的ではなく高雅な感触があるなあと思っています。斉藤高順の小津の映画音楽で『終曲』よりも有名なのが、「早春」「東京暮色」「彼岸花」に使われた通称『サセレシア』。ポルカ調のこの曲、あまり似てないとは思うのですが、個人的にはジャック・タチの映画の音楽を想起させます。

「天翔艦隊」さま、メールで転載のお願いを申し上げましたが、不都合なところはございませんか? これをご覧になっていましたら、ご連絡いただければ幸いです。